健康と医療に関する総合情報サイト GCLEW.com (ジークルー・コム)

対 談
インフルエンザ流行期におけるマクロライドの使い方

三笠 桂一 先生
奈良県立医科大学附属病院
感染症センター
三笠 桂一 先生 (進行)
佐藤 圭創 先生
熊本大学大学院
医学薬学研究部薬物治療学分野
佐藤 圭創 先生

抗ウイルス薬の普及は、インフルエンザの治療に一定の効果を治めているが、なおインフルエンザによる症状の悪化や呼吸器感染症の続発がみられる患者さんが多いのも事実である。近年、マクロライド系抗菌薬(以下、マクロライド)は、抗菌作用だけでなく、インフルエンザウイルスなどに対する抗ウイルス作用も有することが明らかにされている。そこで今回、インフルエンザや続発する呼吸器感染症に対するマクロライドのより有効な使用法について、三笠桂一先生と佐藤圭創先生にご対談いただいた。

はじめに

三笠インフルエンザは毎年冬期に大流行し、重症化する例や死亡例も多いため、社会的に重要な感染症です。そのため早期に適切な診断と治療を行い、入院や死亡率を減少させることは臨床医にとって大きな課題といえます。そこで本日はインフルエンザ流行期における抗ウイルス薬や抗菌薬のより有効な使用法について、考えていきたいと思います。

佐藤先生は、マクロライドとインフルエンザウイルス感染のご研究を非常に精力的に進められており、示唆に富んだお話が伺えるものと大変期待しております。

インフルエンザとかぜ症候群の違い

- インフルエンザは症状が重く続発感染症のリスクも高い -

三笠まず、インフルエンザと通常のかぜ症候群との違いについてお話しいただけますか。

佐藤インフルエンザは流行の伝播速度が非常に速く、重症度も非常に高いという点で、他の原因によるかぜ症候群とは明らかに特徴が異なります。特に高齢者や基礎疾患のある成人、乳幼児のようなハイリスクの患者さんでは、肺炎・気管支炎などの呼吸器疾患や神経性疾患、心血管疾患などを続発することも多く、ときには健康成人でも重症化や死亡がみられることがあります。実際、65歳以上の高齢者における死亡率は非常に高く(図1)、特に早期の診断と治療が重要とされます。

図1.インフルエンザによる死亡者数
※ クリックすると拡大します

三笠インフルエンザの診療にあたって注意が必要な点を、昨シーズンの流行をふり返ってご紹介いただけるでしょうか。

佐藤インフルエンザの流行パターンには毎年少しずつ違いがみられます。昨シーズン(2004〜2005年冬期)は最近5年間で最も流行したのですが、A、B型が同時流行し、例年よりも流行のピークが3〜4週間ほど遅く遷延化するという傾向がみられました。診療にあたっては、このような流行パターンの違いも知っておくことが重要です。

インフルエンザ迅速診断キットの留意点

- 陰性でも症状から疑いがあれば治療を開始 -

三笠最近ではインフルエンザの迅速診断キットや抗ウイルス薬の普及により、インフルエンザの早期診断と治療が可能になりましたが、迅速診断キットを使用する上で注意すべき点はありますか。

佐藤迅速診断キットの留意点は、検体採取や使用法が適切でない場合や、ウイルス量が少ない発症初期や発症3日目以降では感度が低下し、インフルエンザを見逃すことがあることです(図2)。その結果、治療が遅れ、重症化や続発症の発現につながる可能性があります。そのため、特に感染早期あるいは3日目以降の検査結果が陰性であっても、症状からインフルエンザが疑われる場合には、インフルエンザとして治療するべきだろうと考えています。

図2.インフルエンザの経過と迅速検査キットの留意点
※ クリックすると拡大します

抗菌薬の適応

- 続発感染症の徴候が認められれば早期にマクロライドを使用 -

三笠インフルエンザの重症化や続発性の呼吸器感染症がみられる場合、抗菌薬を使用する上でのポイントをお願いします。

佐藤インフルエンザウイルスに感染すると、気道上皮細胞が著しく障害され細菌感染が起きやすい状態になります。これにより、細菌二次感染を起こし、気管支炎や肺炎などの呼吸器感染症を続発するリスクが上昇します。これらの続発症は重症化しやすい傾向があります。

そのため実際の治療においては、まずインフルエンザと診断された段階では抗ウイルス薬を使用しますが、続発性の呼吸器感染症の徴候がみられた場合には、できるだけ早く抗菌薬の投与を開始して重症化を防ぐことが重要です。

三笠使用する抗菌薬の選択において、考慮すべき点は何でしょう。

佐藤基本としては、呼吸器感染症の主要な起炎病原体に対する抗菌活性が基準となります。マクロライドは主要な起炎病原体に優れた抗菌活性を示すだけでなく、呼吸器組織への移行も非常に良好であり、経口薬の選択において重要な抗菌薬です。さらにマクロライドは抗菌作用以外にも、抗炎症作用や免疫調整作用なども有しており、これらの作用がインフルエンザに続発する呼吸器感染症の重症化の抑制に有効である可能性も示唆されています。

マクロライドの肺障害防止作用

- インフルエンザウイルスによる肺障害を防止し生存率を改善 -

三笠マクロライドのインフルエンザウイルスに対する抗ウイルス作用に関して、佐藤先生がご研究を始められたきっかけをご紹介いただけますか。

佐藤この研究を始めましたきっかけは、実際の臨床の現場において、慢性気道感染症でマクロライドを少量長期投与している患者さんは、かぜやインフルエンザに罹っても悪化しにくいという印象があったためです。

三笠マクロライドがかぜやインフルエンザの悪化を防ぐ可能性を考えられたわけですね。実際のご研究において、どのような効果が認められましたか。

佐藤実験系には、致死的マウスインフルエンザウイルス肺炎モデルを用いました。これは、マウスにH2N2株のインフルエンザウイルスを感染させ、宿主の過剰な生体防御反応や炎症性メディエーターの生成、活性酸素種の産生を誘導させることにより、最終的に死に至る病態モデルです。

この病態モデルを用いてマクロライドがマウスの生存率に及ぼす影響を検討したところ、マクロライド未投与群では第20病日目に80〜90%のマウスが死亡しましたが、マクロライド投与群では、用量に依存して顕著な生存率の改善が認められました。同様にマウスの体重減少を抑制することもわかりました(図3)

図3.マクロライドの致死的マウスインフルエンザ肺炎モデルに対する効果
※ クリックすると拡大します

三笠マクロライドによる生存率の改善は明らかですね。この効果には、どのような作用機序が考えられますか。

佐藤インフルエンザウイルスの感染による組織障害は、最初に宿主の過剰な免疫反応が起こり、その後、炎症細胞の浸潤、IFN-γなどのサイトカインの誘導、NO合成酵素の活性化とNOの増加など、一連の過程により生じると考えられます(図4)

図4.インフルエンザウイルス感染とマクロライドの作用機序
※ クリックすると拡大します

私たちはこれまでの研究において、この過程でIFN-γの産生が非常に重要であり、またマクロライドがIFN-γの産生を抑制することなどを明らかにしています。これらの結果から、マクロライドは宿主の過剰な免疫反応によって起こる炎症細胞の浸潤を抑制することにより、IFN-γの産生を抑制して、結果的に組織障害を防止し、この病態モデルの生存率を改善させたのではないかと考えられます。

マクロライド少量長期投与の効果

- インフルエンザや細菌性肺炎を発症しなくなった -

三笠先生のご研究が示すように、動物試験ではマクロライドのインフルエンザに対する効果は明らかですが、実際の臨床現場においてマクロライドが有効であった症例をご経験されたことはありますか。

佐藤はい。図5に示す症例は、インフルエンザが大流行した1998年にワクチンを接種していたにもかかわらずインフルエンザに感染し、細菌性肺炎を続発した患者さんで、明らかな2相性の発熱がみられました。高齢でCOPDなどの基礎疾患を有しており、他院においてエリスロマイシンによる治療が行われましたが、下痢が現れたり、なかなか喀痰の減少がみられなかった患者さんです。そのため、当院では1999年からクラリスロマイシンに変更して少量長期投与を行いました。それ以降6年間にわたり、インフルエンザも細菌性肺炎も認められていません。インフルエンザ流行期において、クラリスロマイシンを使用していない同じような基礎疾患のある患者さんでは、インフルエンザや細菌性肺炎がよくみられたのとは非常に対照的で、感銘を受けています。

図5.インフルエンザ流行期における発熱の経過図
※ クリックすると拡大します

三笠クラリスロマイシンの投与が、インフルエンザや細菌性肺炎の発症を予防したと考えられる症例ですね。ということは、高齢でCOPDのようなハイリスクの患者さんには、流行時期に入る前にクラリスロマイシンの投与を開始しておいたほうがよいということでしょうか。

佐藤ハイリスクの患者さんすべてに少量長期投与を行うことには、まだ問題があると思います。しかし、慢性気道感染症があるような患者さんでは、少量長期投与を事前に実施しておくと、インフルエンザをコントロールしやすくなるということは他の先生方もいわれていますので、検討する必要があると思います。

マクロライドの併用療法

- クラリスロマイシンの併用により症状が早めに改善 -

三笠抗ウイルス薬とクラリスロマイシンの併用が有効であった症例をご経験されたことはありますか。

佐藤図6に示す症例は、抗ウイルス薬にクラリスロマイシンを併用してインフルエンザの重症化を防ぐことができた患者さんです。高齢で重症の間質性肺炎の患者さんで、昨年、インフルエンザから肺炎球菌性肺炎を起こし、重症化して緊急の対応が必要となりました。そのため、今年はインフルエンザの徴候がみられたら、早めの対応をしようと考えていました。熱が出始めたということで、鼻腔内をしっかりと擦過して検査したところ、インフルエンザ陽性の結果が得られました。喀痰の細菌培養の結果は陰性でしたが、昨年、肺炎を続発し重症化していますので、早期から抗ウイルス薬にクラリスロマイシンを併用しました。これにより、4〜5日目には平熱に戻り、続発性肺炎の合併も認められませんでした。

図6.マクロライド併用による症状の改善
※ クリックすると拡大します

三笠抗ウイルス薬とクラリスロマイシンの併用により、症状が遷延化せず、また続発性呼吸器感染症も合併せずに早めに改善が認められたわけですね。

佐藤はい。この症例以外にも、抗ウイルス薬とマクロライドの併用により、症状が早めに改善した患者さんを多数経験しています。このことから抗ウイルス薬とマクロライドの併用は、重症化を抑制するだけではなく、症状改善を早めるのではないかと期待しています。

まとめ

三笠本日の佐藤先生のお話に出てきましたような基礎的・臨床的な特性から、マクロライドはインフルエンザ流行期において重症化を防ぎ、入院や死亡する患者数を減少させる可能性がある力強い味方になると実感しました。毎年のようにインフルエンザの大流行が懸念されますが、抗ウイルス薬とマクロライドの適切な併用、あるいは使い分けは、インフルエンザの重症化や続発する呼吸器感染症に対して、特に高齢者や基礎疾患を有するハイリスクの患者さんでは、非常に有用であると期待されます。

ワクチンと感染対策によりインフルエンザを予防し、迅速診断キットで早期診断し、抗ウイルス薬とマクロライドを使用して治療を行うという、今期のインフルエンザ対策の標準装備が揃ったように思います。本日はありがとうございました。