
インフルエンザの重症化や続発する呼吸器感染症に対するマクロライドの有用性に関しては、さまざまな報告が行われている。さらに最近では、インフルエンザウイルス以外のウイルスに関しても、マクロライドの有用性が明らかにされてきている。そこで、マクロライドの呼吸器感染ウイルスに対する作用に関して、基礎と臨床の両面から優れた研究を進められている山谷睦雄先生に、本分野における最新の知見についてお話を伺った。
山谷マクロライドの抗ウイルス作用に関する最初の報告は、1980年代のポリオウイルスの感染抑制作用に関する研究です。呼吸器感染ウイルスに関しては、1990年代後半からマウスのインフルエンザ感染モデルなどを用いて肺炎の死亡率の抑制効果や、感染抑制作用などが報告されています。また、2000年代に入り、私たちはマクロライドのライノウイルス感染抑制作用について報告を行いました。
山谷ライノウイルスはかぜの原因として最も一般的で、主な症状は鼻水、咽頭痛、くしゃみなどです。季節的な流行はなく1年を通して認められます。インフルエンザのような高熱や関節痛がみられることは少なく症状は比較的穏やかですが、COPDや気管支喘息の患者さんでは急性増悪を引き起こすことがあり、注意が必要です(表1)。
山谷ライノウイルスの感染は、気道炎症惹起物質の放出、ヒスタミン放出促進、好酸球活性化などを誘発し、かぜ症状(気道粘膜の浮腫や分泌過剰、咽頭痛、微熱など)を引き起こすと考えられます(表2)。さらに気道狭窄を生じてCOPDを増悪させます。
山谷ライノウイルスには100種以上の血清型がありますが、主要なものは90%を占めるmajor typeライノウイルスと残り約10%のminor typeライノウイルスです。
私たちはヒト気管上皮細胞を用いて、マクロライドが細胞内ライノウイルスRNA量の増加を抑制する(図1)とともに、感染成立に必要なウイルス量を増加させることを明らかにしました。
この作用機序として現在 (1) マクロライドがmajor typeライノウイルスの感染受容体である細胞接着分子ICAM-1の発現を抑制する、 (2) マクロライドがライノウイルスRNAの侵入経路である細胞内の酸性エンドゾーム内のpHを上昇させることによりライノウイルスRNAの放出を抑制する、という2つが考えられています。
山谷インフルエンザウイルスに対する感染抑制作用はすでに報告されていますが、私たちは、RSウイルスに対する感染抑制作用について研究を開始しました。RSウイルスによるかぜは、乳幼児では急激な悪化による細気管支炎や肺炎、さらに呼吸困難を引き起こすリスクが高く特に重要な疾患です。現在、ヒト気管上皮細胞を用いた研究において、マクロライドはRSウイルス感染受容体の機能を抑制することを確認しています。さらに、ウイルス放出抑制作用についても研究を進めているところです(図2)。
山谷COPDの患者さんを対象としたこれまでの研究において、マクロライド少量長期投与群ではかぜをひく回数が減少し、急性増悪の回数も減少することを確認しています(図3)。
山谷前述のデータのように、かぜによる急性増悪により繰り返し呼吸器不全に陥るようなCOPDの患者さんには、マクロライド少量長期投与が有用であると考えられます。マクロライドは喀痰産生を抑制するため、喀痰が増加している患者さんにも有用であると考えられます。
また、ウイルス性のかぜから気管支炎や肺炎を続発した場合であっても、細菌の混合感染である場合が高頻度で認められます。そのため、特に高齢者などハイリスクの患者さんでは、マクロライドの使用を検討します。
さらに、インフルエンザなどで抗ウイルス薬を投与している場合でも、効果が十分でない患者さんや、COPDや気管支喘息の患者さんでは、マクロライドの使用を検討します。
ただし、使用のタイミングや使用期間に関しては、個々の症例の症状や耐性菌の発現などに十分な配慮をして決める必要があります。