ラウンドテーブルディスカッション 8:

冠攣縮性狭心症に対するCa拮抗薬治療はいつまで続けるか

冠攣縮性狭心症に対してはCa拮抗薬の高い有効性が確立している。日本人は欧米白人に比べ冠攣縮性狭心症の発症率が高く、狭心症治療におけるCa拮抗薬の果たす役割は大きいが、治療をどのくらい長期間続けるべきか、言い換えればCa拮抗薬による治療を中止できるかどうかについては、まだ結論が出ていない。本学会ではこの問題に対する答を探る目的で表題のラウンドテーブルディスカッションが開かれ、3人のエキスパートが自験例の成績を報告、治療期間や再発抑制策などをめぐり討論が行われた。

冠攣縮性狭心症患者90例の追跡結果から

東京慈恵会医科大学循環器内科
望月 正武

Ca拮抗薬が冠攣縮性狭心症に対し著効を示すことは周知のとおりだが、問題は発作の再発を抑えるために半永久的にCa拮抗薬を服薬する必要があるのかどうかである。それに対する解答を得るためには、本症の患者を長期間追跡し、治療中止に伴う再発リスクや再発に影響を及ぼす危険因子などを検討する必要がある。望月氏は冠攣縮性狭心症患者を数年間にわたって追跡した成績を示し、Ca拮抗薬治療の中止は発作再発の危険性が高いこと、喫煙や飲酒が再発や心血管イベントを誘発する可能性があることなどを指摘した。

胸痛患者における冠攣縮性狭心症の頻度は45%

望月氏らは1997〜2005年の間に、主に胸痛を訴えて受診した患者を対象に、冠動脈造影検査とアセチルコリンによる冠攣縮誘発試験を行い、冠攣縮性狭心症の頻度を調査。冠動脈に器質的狭窄病変が存在せず、誘発試験で冠攣縮が認められた患者は202例中90例(44.6%)であった。この90例のうち、男性は77例(85.6%)であり、全体の平均年齢は59歳であった。また、多枝陽性例は49%を占め、1枝陽性例(39%)に比べ高頻度であった。

主な冠危険因子の頻度は喫煙が61%、高脂血症が56%、高血圧が39%、糖尿病が22%であった。診断確定後の治療としては、Ca拮抗薬が97.8%とほぼ全例に投与されたが、他に併用薬として硝酸薬が60%、ニコランジルが18.9%の症例で追加投与されている。Ca拮抗薬で最も処方率が高かったのはジルチアゼムの60%であり、ニフェジピンがこれに次いで28%の症例に投与されていた。そのほかにアムロジピン(6%)、ベニジピン(3%)なども使用された。

Ca拮抗薬の中止は再発の危険性を高める

上記90例の冠攣縮性狭心症患者を平均3.2年間追跡し、再発頻度や予後を検討した。観察期間中に死亡は発生しなかったが、18例(20%)が胸痛を訴え、3例(3.3%)が狭心発作再発により入院し、1例(1.1%)は非Q波心筋梗塞を発症した。狭心症が再発した3例のうち2例は発作時にCa拮抗薬の服薬を中止していた。心筋梗塞を発症した症例では、Ca拮抗薬による治療は継続していたが、禁煙後の喫煙再開と大量飲酒が発症に関与したと考えられる。

望月氏は以上の結果に基づき、冠攣縮性狭心症患者の再発および心血管イベントを抑制するためにはCa拮抗薬による治療の中止は困難で、同時に喫煙、飲酒などの再発を促進すると考えられる危険因子を管理することが重要であると述べた。また、冠攣縮性狭心症に対しては、血管内皮細胞に対する保護作用が認められているスタチンやニコランジルの有効性も期待できるが、それはCa拮抗薬治療を継続するという前提に立って考慮すべき補助的治療法であるとの見解を示した。

Ca拮抗薬治療中止に伴う冠攣縮性狭心症患者の長期的な冠攣縮再発リスクを展望

熊本大学大学院医学薬学研究部循環器病態学
小川 久雄

熊本大学では、1984年以降2006年までに、1,110例という多数の冠攣縮性狭心症症例が検討されている。小川氏は、アセチルコリン負荷による冠攣縮誘発試験の結果から冠攣縮性狭心症患者の冠攣縮発現リスクを推定する検討を行い、Ca拮抗薬治療を長期間継続している患者においても冠攣縮再発リスクは高いことを明らかにした。また攣縮発作のみられない冠攣縮性狭心症患者に対しても、Ca拮抗薬治療を継続することの重要性を指摘した。

平均7.6年の追跡で冠攣縮の消失率は14%

小川氏は、Ca拮抗薬治療を続ける冠攣縮性狭心症患者において、2回の冠攣縮誘発試験を行った29例の成績を報告した。冠攣縮の誘発はアセチルコリン負荷により行い、冠動脈造影法を用いて冠攣縮の有無、動脈硬化の進行などの冠動脈病変を評価した。1回目と2回目の冠攣縮誘発試験の間隔は、1〜16年(平均7.6年)だった。

その結果、1回目、2回目ともに冠攣縮が誘発された患者は29例中14例(48%)。1回目は誘発されたが2回目は陰性に転じたものは4例(14%)だった。また、1回目に陽性だったが冠動脈病変の進展が大きく2回目の誘発試験が施行不能だった患者が4例(14%)存在したが、小川氏は「これらの患者にアセチルコリン負荷試験を行っていたならば、確実に冠攣縮が誘発されたと考えられる」と説明している。

一方、1回目は陰性だったが2回目に陽性となったのは7例(24%)、2回目の冠動脈造影で有意な新規冠動脈狭窄出現が認められたのは9例(31%)だった。小川氏は「このような動脈硬化の進展は31%程度にしか認められず、Ca拮抗薬は動脈硬化を抑制している可能性が大きい」という。

10年以上の長期Ca拮抗薬継続患者でもほとんどが攣縮誘発

1回目と2回目の誘発試験の間隔(追跡期間)の長さにより、患者を3群に分けて検討すると、1回目は冠攣縮が誘発されたが2回目に陰性に転じたのは、追跡期間が1〜5年未満群(8例)では1例(13%)、5〜10年未満群(14例)では1例(7%)とわずかだった。これに対し、10年以上群(7例)では、2例(29%)とやや多かったが,それでも、1回目に冠攣縮が誘発された患者のほとんどが2回目も陽性であることに変わりはない。このことから、たとえ長期間、冠攣縮が抑制されている患者でも、Ca拮抗薬治療の必要性が示唆された。

また、経皮的冠動脈血行再建術(PCI)前後での冠攣縮誘発を比較した15例の検討では、PCI施行前の負荷試験で冠攣縮を認めた9例のうち8例で、PCI施行後も冠攣縮が認められている。このことから小川氏は「PCI施行前に攣縮を認める患者のほとんどは、PCI施行後も攣縮が消失しないと考えられ、これらの症例では、PCIの施行後も必ずCa拮抗薬治療を継続しなくてはならない」と強調した。

Ca拮抗薬治療の中止・継続の判断に重要な冠攣縮発作の活動性評価-非侵襲的な客観的評価法が有用

労働者健康福祉機構浜松労災病院内科
三羽 邦久

冠攣縮性狭心症におけるCa拮抗薬治療は原則的には継続すべきであるが、三羽氏は、妊婦、授乳者、未成年者など、一部の患者に対してはCa拮抗薬治療の中止を考慮しうる場合もあることを示唆。この場合は、生命予後に影響を与える他の危険因子のないことが条件となる。また、発作後2年以内は冠攣縮が高率に生じていると考えられるため、特にこの期間のCa拮抗薬の中止を考慮する際は、同氏らが開発したColor Kinesis心エコー法などの客観的指標で虚血発作の有無について評価を行う必要があると述べた。

治療中止の可能性があるのは他の危険因子を有さない患者

異型狭心症患者の予後改善には、Ca拮抗薬の投与が必須とされている。Ca拮抗薬を投与しない場合、5年以内の死亡リスクはCa拮抗薬を投与した場合の5倍、10年以内の死亡リスクは7.5倍と、「Ca拮抗薬の非投与」は生命予後に対する主要な危険因子となる。

三羽氏は、冠攣縮性狭心症患者においてCa拮抗薬が中止可能な候補者症例となるのは「Ca拮抗薬非投与」以外の生命予後危険因子をもたない患者であるとし、その条件としては「発症後3か月以上経過し、両壁誘導のST上昇がない、左室機能が正常、喫煙をしていない、常習飲酒あるいは大酒をしない、また心筋梗塞のない生命予後に影響する因子である有意冠狭窄がない、冠攣縮の自然発作があまりないdisease activityの低い患者、さらに同氏の研究データから、 HDLコレステロールが低くなくLp(a)が高くない」などが考えられると述べた。

新開発の客観的評価法で発作後2年以内の高率な虚血発作発現を確認

冠攣縮性狭心症患者において、実際に、冠攣縮の活動性(虚血発作の有無)を診断するのは非常に難しい。三羽氏らは、虚血後の局所心機能の異常により冠攣縮を診断するColor Kinesis心エコー(CK)法を開発。同氏によると、特に左室拡張早期は虚血に非常に敏感で、冠攣縮による虚血発作後の左室収縮障害が改善した後も、局所拡張障害が遷延持続することがある。左室の局所拡張運動を非侵襲的に定量的評価できるCK法は、異型狭心症と胸痛症候群との鑑別や多枝攣縮の診断に有用で、グローバルな拡張機能指標よりはるかに鋭敏に、虚血後局所左室心筋の拡張早期異常を検出できるという。

三羽氏らがこのCK法を用いて活動期の異型狭心症例26例を、Ca拮抗薬投与下で追跡した結果、発作の2年後においても高率に冠攣縮が生じていることが確認された。また1年後の寛解率は、自覚症状を指標にすると85%だが、CK法では58%と、自覚症状と客観的評価の結果には大きな開きのあることも判明した。

このような点を踏まえ三羽氏は「冠攣縮性狭心症にCa拮抗薬治療は、原則的には継続すべきである」と明言し、Ca拮抗薬治療の中止を考えるとすれば、対象となるのは、妊婦、授乳者、未成年者、将来妊娠が予想される女性、副作用や過敏症により服用が難しい患者、さらにコンプライアンスの不良な患者や、本人の希望が強い患者などとしている。

その上で、「無症状の患者でも、虚血発作後2年以内は冠攣縮が高率に生じていると考えられることから、この期間のCa拮抗薬の中止は慎重に行うべきで、CK法など客観的指標を用いた活動性の評価が必要だと思われる。またハイリスク患者におけるCa拮抗薬の中止は難しい」と結論した。

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