ファイアサイドセミナー27:
脳・心血管イベント予防の新たな展開
アテローム血栓症の一次、二次予防における抗血小板薬の役割
- 東海大学医学部内科系、東海大学総合医学研究所
- 後藤 信哉氏
後藤氏はアテローム血栓症に対する抗血小板薬の役割について、臓器別ではなく全身性のアテローム血栓症として包括的に捉えることの重要性、一次および二次予防におけるアスピリンの有効性と副作用のバランス、抗血小板薬の併用療法適応例−の3つの観点から論じた。
アテローム血栓症としての共通性と治療実態
心筋梗塞や脳梗塞、末梢血管障害などの動脈系の血栓性疾患は、症候を呈する臓器は異なっていても発症に至る過程や原因は同一であり、全身性のアテローム血栓症として包括的に捉える必要がある。アテローム血栓症は血小板を主体とする血栓により惹起されるため、抗血小板薬アスピリンによって効果的な予防が可能である。
REACH研究は6万7,000例を対象としたアテローム血栓症に関する国際共同研究であり、わが国からも5,197例が登録された。登録基準は、脳血管障害、冠動脈疾患、末梢血管障害、いずれかの危険因子を3つ以上保有する症例である。これら患者の背景因子を検討すると、危険因子である高血圧症、糖尿病、高脂血症の保有率は同一であり、これらの3疾患はバックグランドが共通する疾患であることが再確認された。
日本人は肥満の保有率が低いことを除くと、患者背景については世界の他の地域と差異は認められなかったが、治療実態では特にアスピリンの処方率が他国に比べて低く、アスピリン療法がまだ十分に浸透していないことが明らかになった。
血栓症リスクが高く、出血リスクが低い患者を選択
抗血小板薬を用いて血小板の機能を抑制すれば、抑制の程度に応じて出血性合併症の発現頻度が上昇するため、有効性と副作用のバランスを考慮して適応患者を選別することが重要である。二次予防においては、血栓症リスクが出血リスクに比べてはるかに高いため、アスピリンが有用であることに疑いの余地はない。
しかし、一次予防においてはより緻密な評価が必要となる。アスピリンによる出血リスクそのものは低いが、例えば健常人を含む極めてリスクの低い集団ではそもそも血栓症の発症頻度が低いため得られる効果はそれほど大きくなく、リスク・ベネフィットバランスは接近する。一方、複数のリスクを合併する、よりリスクの高い集団に対しては、二次予防同様、効果がリスクを上回ると考えられる。どの程度のリスクを持つ集団においてアスピリン療法が有用となるかについては、さらなるエビデンスの集積が必要となる。
抗血小板薬を併用し、血小板凝集能のみを強めれば、出血リスクはさらに増大するが、ステント留置後の急性期、薬剤溶出性ステント留置例では有用性が出血リスクを上回ることが報告されている。一方、脳梗塞症例では併用療法のメリットが得られにくいと考えられている。
2006年の米国心臓病学会(ACC)では、低用量アスピリンとクロピドグレル併用の効果を検討したCHARISMAの成績が報告された。心筋梗塞、脳梗塞および複数の危険因子を保有する症例に対して、心筋梗塞、脳梗塞、心血管死の複合エンドポイントには群間に有意差は認められず、併用療法群では中等度の出血のリスクが増大した。したがって、これらの対象に対して全体的にアスピリンにクロピドグレルを併用することの意義はないといえる。
一方、症候の有無から患者を層別化すると、複合エンドポイント発生リスクは心血管病を有する患者では有意に抑制されたのに対し、無症候性の患者群では上昇した。すなわち、これらの併用療法の是非については、患者のリスクの程度に応じて詳細に評価することが必要となろう。
以上の知見から後藤氏は、アテローム血栓症の二次予防においてはアスピリンの有用性は確立しているが、一次予防においてはリスク・ベネフィットバランスを十分に吟味することが重要であり、そのためのエビデンスの構築が期待されることを強調した。
Critical Issues for the New AHA/ACC Secondary Prevention Guideline
新しいAHA/ACC二次予防ガイドラインの重要な課題
- Center for Cardiovascular Science and Medicine, University of North Carolina, USA
- Sidney C. Smith Jr.氏
2001年にAHA/ACCの心血管疾患二次予防ガイドラインが作成されて以来、多くのエビデンスが報告されてきた。これらの知見を反映して、同ガイドラインは2006年に改訂される(4月公表予定)。Smith氏は、ガイドライン改訂の基盤となった主だったエビデンスを紹介し、ガイドライン作成上の課題について論じた。
脂質はどのレベルまで低下させるべきか
脂質低下療法の課題は、LDL-C管理目標値を現状の100mg/dL未満からどのレベルまで引き下げるべきかにある。Heart Protection StudyやPROVE IT-TIMI 22では、管理目標値よりも積極的にLDL-Cを低下させることで、心血管イベントの抑制が認められ、2004年には、特に高リスクの患者ではLDL-C管理目標値を70mg/dL未満とするようにATPIIIが改訂された。
その後、安定冠動脈疾患を対象としたTNTやIDEALにおいても、積極的脂質低下療法の効果が報告されたが、2006年のACCで発表されたASTEROIDにおいてもLDL-Cを60mg/dLまで低下させることにより冠動脈プラークが退縮することが示された。また、LDL-Cだけではなく炎症を抑制することの重要性も示唆されている。
左室機能が保持されている患者に対するRAAS抑制の効果
ACE阻害薬の二次予防効果は、左室機能低下例では確立しているが、冠動脈疾患があっても左室機能は低下していない患者においては実証されておらず、HOPEとEUROPA、PEACEとQUIETでは結果に相違が認められた。これらの臨床試験では、使用されたACE阻害薬、設定されたエンドポイントの内容、対象集団のイベント発症リスクが異なるなどの課題もある。アスピリンとスタチンで治療されている患者に、ACE阻害薬を追加することでさらなる有用性が得られるかどうかについては画一的な回答は得られていない。
降圧薬の選択
JNC-VIIでは、利尿薬とACE阻害薬を用いることが強く推奨されている。しかし、ASCOTではβ遮断薬/利尿薬併用群に比べて、Ca拮抗薬/ACE阻害薬併用群で心血管イベント、総死亡の低下率が高いことが示唆されており、降圧薬の選択、組み合わせを見直す必要性が指摘されている。
血栓症に対するアスピリン療法の有用性
アテローム血栓症の二次予防において、アスピリンの有用性は確立しており、その効果は75〜150mg/日の低用量でも認められる。わずかであるが出血リスクがあることを勘案すると、この用量範囲が臨床上の至適用量となる。ACC/AHAガイドラインでも低用量アスピリン療法は強く推奨されている。
アスピリンにクロピドグレルを併用する効果は、急性冠症候群については大規模臨床試験で実証されている。しかし、2006年のACCで発表されたCHARISMAでは、脳・心血管疾患患者および高リスク患者におけるクロピドグレルの併用効果は認められなかった。
アスピリン、降圧および脂質低下療法を組み合わせると、心血管イベントの再発を70〜80%程度まで低下させうることが報告されており、ガイドラインでもこれらの効果的な併用療法が推奨されている。しかし実際には、これらの薬物療法が十分に行われているとは言い難い。Smith氏は、どうすればこれらの薬剤が適正に処方されるようになるのかを今後考えていく必要があることを強調した。



