真下記念講演:
Frontier of Tissue Engineering Indispensable for Cardiovascular Regeneration Therapy
(循環器再生医療を支える生体組織工学の最前線)
生体組織工学を用いた再生誘導治療の現況を紹介
- 京都大学再生医科学研究所 生体組織工学研究部門 生体材料学分野
- 田畑 泰彦氏
1993年、Science誌にLangerとVacantiによる論文"Tissue Engineering"が掲載された。これをもって生体組織工学の嚆矢(こうし)とする。当時、MIT、Harvard Medical Schoolに留学中の田畑氏は、生体組織工学の誕生に立ち会った、ただ一人の日本人である。
再生組織工学とは、生体組織の再生誘導を促すための適切な環境を細胞に提供する医工学の技術およびその方法論である。そして、再生医療は臓器移植、再建外科に続く第3の治療法であり、幹細胞の生物学に基づく再生医学と、生体組織工学という2つの研究分野からなる。本講演で田畑氏は、生体組織工学の研究対象のうち生体材料(biomaterials)と薬剤送達法(drug delivery system; DDS)に言及、これを利用した再生誘導治療の現況を紹介し、単なる研究ではなく、実際に医療として臨床に用い得ることを訴えた。
足場(scaffold)とDDSの技術がもたらしたもの
田畑氏は冒頭、「生体組織の構成成分には、1)組織・器官・臓器の基本単位である細胞、2)細胞が増殖・分化するための仮の足場(scaffold)、3)細胞の増殖・分化の促進成分である細胞増殖因子の3つがあり、これらをうまく組み合わせて欠損した組織を再生誘導するのが生体組織工学を用いた再生医療である」と定義した。
同氏らはすでに、コラーゲンなどを用いた立体的な生体吸収性の材料を作成し、これを細胞増殖のscaffoldとして生体組織の再生を誘導するアプローチを、皮膚真皮層、食道、気管、末梢神経、脳硬膜で行っている。これは、細胞を用いずに生体材料のみを利用して体内で再生誘導治療に成功した世界初の事例である。
生体材料と組み合わせることで、薬物の作用を最大限に発揮させる技術・方法論がDDSであるが、薬物を生理活性物質に置き換えるとさまざまな応用が可能である。同氏らは生体吸収性ハイドロゲルを開発、これを用いた細胞増殖因子の徐放化により、現在、多くの生体組織の再生誘導が可能となっている。
事実、細胞増殖因子の徐放化技術による再生誘導治療はすでに現実のものだ。例えば、細胞増殖因子としてbFGF、platelet-rich plasma(PRP)を用い、長管骨、下顎骨、上顎骨、関節軟骨、関節半月板、脂肪、皮膚、末梢神経、歯周組織、声帯周辺組織などに対する再生誘導治療の臨床試験が開始されている。これが生体組織工学を用いた再生誘導治療の最前線である。
生体組織工学を用いた再生誘導治療の多彩な展開
細胞を用いた治療アプローチも、すでに多彩な展開をみせている。また、細胞増殖因子やscaffoldを用いた方法には適応の拡大という重要な役割もある。さらに、内科的治療への生体組織工学の展開として難治性慢性疾患の再生誘導治療も試みられており、例えば拡張型心筋症モデルラットにおいて徐放化肝細胞増殖因子(HGF)の抗線維化効果が得られている。
再生医療における遺伝子の利用としては、遺伝子を直接投与する場合と幹細胞を遺伝子で増強して用いる場合とがある。例えば、プラスミドDNAの徐放化による血管誘導療法、TGF-β受容体IIのsiRNAを利用した慢性腎不全の線維化抑制などのほか、細胞-遺伝子ハイブリッド治療として徐放化プラスミドDNAにより遺伝子改変されたヒト血管内皮前駆細胞による細胞移植療法が試みられている。すなわち、非ウイルスキャリアとしてマクロファージを用い、これにHGF遺伝子を取り込ませたハイブリッド治療は、細胞のホーミング能を利用して線維化抑制遺伝子を病的部位にターゲッティングする方法であり、腹膜線維化を有意に抑制することが示されている。
最後に田畑氏は、「scaffoldとDDSを利用した生体組織工学を用いて生体内に存在する幹細胞を増強することで治療効果を得る再生医療は、現実の治療法となっていることを認識して欲しい」と結んだ。



