ランチョンセミナー28:

Ca拮抗薬は心不全の新規発症を予防できるか?

心不全に対し予防効果を示す降圧薬として評価が確立しているのはレニン・アンジオテンシン系抑制薬であり、Ca拮抗薬については、最近まで、有効性を示す成績は存在しなかったが、2004年に発表された大規模臨床試験ACTION(A Coronary disease Trial Investigating Outcome with Nifedipine gastrointestinal therapeutic system)研究の成績は、1日1回型ニフェジピン製剤(本邦未承認のGITS製剤)が心不全の新規発症を有意に抑制することを示した。この成績を受けて、Ca拮抗薬の心不全予防効果に対する関心が高まっているが、ランチョンセミナーではCa拮抗薬の心不全発症抑制機序、ACTION研究の臨床的意義をめぐって日英の専門家が講演を行った。

心不全の発症機序とニフェジピンの効果

京都大学大学院医学研究科循環器内科学
松森 昭

心不全の発症は炎症によって促進されるが、最近の研究から、この炎症にはマスト細胞が中心的な役割を演じていることが明らかになっている。心臓にはマスト細胞が存在し、心筋症による心不全ではそれが増加すること、マスト細胞でアンジオテンシンUが産生されていることも判明した。感染や高血圧などの刺激がマスト細胞を活性化すると、炎症促進因子であるNF-κBの発現が亢進し、それによって増加する炎症性サイトカインが心筋リモデリングや心機能の低下を引き起こすと考えられるが、松森氏は一部のCa拮抗薬にはNF-κBの活性化を抑制するものがあることを示し、ACTION研究でニフェジピンが示した心不全発症抑制効果にこの作用がかかわっている可能性を示唆した。

マスト細胞、アンジオテンシンUの役割

マスト細胞はアレルギー反応を惹起する重要な細胞であるが、最近の研究から心筋の炎症に対してもこの細胞が影響を及ぼしていることが示唆されている。心組織にはマスト細胞が存在し、マスト細胞にはこれも炎症促進因子であり心筋リモデリングを起こすアンジオテンシンUが存在する。ヒトの心筋症では心組織のマスト細胞が増加することも明らかになっている。

動物実験では、種々の心不全モデルでマスト細胞の役割が検討されているが、マスト細胞欠損マウスでは大動脈結紮により発症する心不全の進行が抑えられること、マスト細胞の活性化を阻害する抗アレルギー薬が心不全に対し抑制効果を示すこと、さらにはマウスのマスト細胞を欠損させると、ウイルス性心筋炎・心不全の生存率が改善し、心筋細胞の壊死、炎症細胞の浸潤が抑えられることが報告されている。

活性化したマスト細胞は細胞内シグナル伝達系のNF-κBに作用し、炎症を促進すると考えられるが、NF-κB阻害薬は実験的心筋炎マウスの生存率を改善し、同時に炎症細胞浸潤と心筋壊死を抑制することも明らかになった。マスト細胞ではアンジオテンシンUも産生されるが、アンジオテンシンUも心臓のNF-κBを活性化する因子の一つと考えられる。アンジオテンシンU受容体拮抗薬(ARB)はサイトカイン産生およびNF-κBの活性化を低下させるが、その作用が臨床的に認められている心不全発症抑制効果に関係している可能性がある。

ニフェジピンのNF-κB活性化抑制効果が明らかに

Ca拮抗薬については、最近、1日1回型ニフェジピン製剤が心不全発症率を有意に低下させることがACTION研究によって証明され、注目を集めた。ニフェジピンにはT細胞の増殖、NK細胞の活性化、上皮ランゲルハンス細胞による過敏反応を抑制する作用、インターロイキン(IL)-8、IL-1、腫瘍壊死因子(TNF)-αなどのサイトカインによるシグナル伝達や接着分子、単球遊走因子(MCP)-1の発現を抑制する作用が報告されており、炎症に対して抑制的に働く可能性が示されていた。

松森氏はニフェジピンのNF-κBに及ぼす作用を検討した成績を示し、マクロファージ細胞株をリポ多糖で刺激した際に起こるNF-κBの活性化をニフェジピンが強く阻害することを明らかにした。また、IL-1、TNF-αなどで細胞を刺激した場合にみられるNF-κBの活性化をニフェジピンは用量依存性に抑制したが、アムロジピン、ジルチアゼム、ベラパミルなどのCa拮抗薬にその効果はみられなかった。松森氏はこの知見に基づき、NF-κB活性化阻害作用はおそらくニフェジピンに固有のものであり、そうであるならば、心不全に対する有効性もCa拮抗薬によって異なる可能性があるとの見解を示した。

Can calcium antagonists prevent new onset of heart failure; a sub-study of the ACTION trial
安定狭心症に対する1日1回型ニフェジピン製剤の安全性および有効性を明らかにしたACTION研究

National Heart and Lung Institute Faculty of Medicine, Imperial College London, Royal Brompton and Harefield Hospitals, UK
Philip A. Poole-Wilson

ACTION(A Coronary disease Trial Investigating Outcome with Nifedipine gastrointestinal therapeutic system)研究は、安定狭心症患者を対象に1日1回型ニフェジピン製剤の脳・心血管イベント抑制効果をプラセボと比較した初めての大規模臨床試験であるが、Poole-Wilson氏はこの試験の結果に基づき、1日1回型ニフェジピン製剤は短時間作用型Ca拮抗薬において指摘されていたような有害作用は認められず、安定狭心症患者における予後改善に有用であること、特に心不全の新規発症予防に有用であることを強調し、ニフェジピンが安定狭心症に対する標準的治療薬になると述べた。

1日1回型ニフェジピン製剤により心不全の発症リスクが29%低下

ACTION研究では既に標準的治療を受けている7,665例の安定狭心症患者を、1日1回型ニフェジピン製剤30〜60mg/日またはプラセボに無作為に割り付け、平均4.9年間追跡した。その結果、1日1回型ニフェジピン製剤群で、心不全の新規発症、狭心症の悪化(冠動脈造影で確認)および冠動脈バイパス術の施行のリスクが、それぞれ29%、18%および21%有意に低下したほか、後遺症を伴う脳卒中も有意ではないものの22%低下することが明らかになった。中でも特に注目されたのは、ニフェジピンによって心不全の新規発症が有意に抑制されたことである(P=0.015)。大規模臨床試験においてCa拮抗薬の有意な心不全の発症抑制効果が示されたのは、これが初めてである。

1日1回型ニフェジピン製剤が心不全の新規発症をどのようにして抑制できたのかを明らかにするため、まず心不全発症に至るリスクについて探ってみた。心不全発症の有無別に種々の背景因子について比較したところ、心不全発症群は非発症群に比べ加齢、左室駆出率の低下、末梢血管疾患、肥満、腎機能障害などが有意に高く、これらが心不全発症のリスク因子と考えられた。

狭心症治療における1日1回型ニフェジピン製剤の位置づけが明らかに

さらに、観察期間中に心不全を発症した患者207例(ニフェジピン群86例、プラセボ群121例)について、発症に至るまでの臨床的特徴を探ってみたところ、何のイベントも経ず心不全に至ったものが52例と最も多く、これに次いで入院を要する胸痛が48例、心房細動またはその他の不整脈が45例で、そのほかに冠動脈インターベンションの施行が15例認められた。一方、心筋梗塞を経て発症したものは、47例と意外にも少なかったかったことは、これまで考えられてきた以外の心不全の発症メカニズムの存在を示唆している。

Ca拮抗薬は狭心症治療薬であると同時に降圧薬としても広く使用されているが、血圧値と発症率の関係について検討したところ、脳卒中の発症と血圧値との間で認められた相関が、心不全に対しては認められなかった。Poole-Wilson氏はACTION研究から得られた知見を踏まえ、狭心症の発作から生じる心筋虚血傷害が、最終的に心不全へ至る過程をニフェジピンは抑制している可能性があると述べるとともに、心不全発症抑制という点からみても1日1回型ニフェジピン製剤の有用性が明らかになった今、本剤を狭心症治療における標準的治療薬の一つに位置づけることが妥当との見解を示した。

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