会長講演:
Regeneration Medicine as the Ultimate Medicine
−The Limitation and Future −
(究極的医療としての再生医療−その限界と将来−)
再生医療が直面する限界と将来展望
- 岐阜大学大学院医学研究科再生医科学循環病態学・呼吸病態学・第二内科
- 藤原 久義氏
骨髄幹細胞から種々の組織への分化転換を図る再生医療は、将来の究極的医療と期待される最新医学だが、その道のりは平坦なものではない。藤原氏は、現在、再生医療が直面している限界と、その将来的展望について概説した。
in vivoでの分化転換の難しさが最大の問題
藤原氏によると、再生医療研究における最も大きな問題点は、in vitroとin vivoとの大きなギャプにある。in vitroと異なり、実際の生体内で骨髄幹細胞を心筋細胞や血管内皮細胞に分化転換させることは非常に困難で、現在のところ、in vivoで血管や心筋細胞の再生に成功していない。生体組織には、傷害-細胞死-修復-再生という治癒機能(再生機能)が備わっている。このため、in vivoに移植された幹細胞から組織形成にたどりつくには、この一連の過程を一つの現象として捉えたアプローチが必要となる、と藤原氏は強調した。
再生医療における心筋梗塞、慢性心不全への治療効果
藤原氏は、何らかの疾患で傷害を受けた組織が、細胞死を経て、修復、再生へと進む過程を、広い意味での「再生医療」と位置づけている。この意味では、骨髄幹細胞移植に限らず、G-CSFをはじめ、降圧薬治療やPCIなど、組織再生を促すすべての介入が広い意味での「再生医療」となる。
急性心筋梗塞においては、急速な虚血により心筋が傷害し(傷害)、大量の心筋細胞が死滅(細胞死)、その後、それらの死滅細胞を炎症細胞が貪食して、炎症細胞はアポトーシスにより消滅(回復)。その後に、筋線維芽細胞などの増殖、さらにそれらの細胞のアポトーシス死による瘢痕形成や心筋細胞肥大(再生)が生じる。これらの過程を踏まえ、藤原氏らは、アポトーシスを阻害して筋線維芽細胞を残存させると、心機能の改善が得られることを報告している。
骨髄幹細胞移植やG-CSFは心筋梗塞後の心機能を改善する。しかしそれは、心筋細胞再生というよりも、主に治癒過程の促進や生存心筋細胞への直接作用によるものと考えられる。また慢性心不全の生存率、心機能およびリモデリンングの改善効果も、慢性心不全における心筋細胞死の機序と考えられる心筋細胞の自食作用のブロック、コラーゲンを活性化するMMP-2、MMP-9の活性(コラーゲンの減少)、およびTNF-αの抑制、心筋細胞のG-CSF受容体、Stat 3、AKTの活性化によると考えられている。
傷害-細胞死-修復-再生を一つの現象と捉えたアプローチを
臨床研究においても、G-CSFは、難治性狭心症患者の血流を改善し、臨床症状の改善すること、また急性心筋梗塞患者の左室機能(LVEF)を改善することが示されており、再生医療には確かに臨床的効果があるといえる。しかし、心機能やリモデリングに対する改善程度は、当初の期待に比べ小さなものである。
藤原氏は、再生医療は現段階でまだ多くの限界を有する若い科学だが、すでにin vitroでは心筋組織の再生などが実現しており、傷害-細胞死-修復-再生を一つの現象と捉え、それぞれの分子機序を解明していくことで、近い将来、必ずin vivoでの心筋組織再生が可能となる日が来ることを予測し、完全治癒に近い劇的な治療成果の得られる「究極的な医療」に向けての期待は大きいと述べた。
再生医療における最大の限界である幹細胞からの分化転換の困難を乗り越えるため、多くの研究者が分化転換を増強する方法を必死に模索している中、藤原氏らの研究では、5-FUなどで免疫抑制処理をした幹細胞を用いることで、心筋梗塞後の心機能やリモデリングの改善が認められているという。このような薬剤を併用することによる再生医療の可能性も近い将来期待できるのかもしれない。



