Late Breaking Clinical Trial in Japan:
日本における最新の臨床試験
−J-SAP Study(日本人の安定労作性狭心症研究)結果−
低リスク安定労作性狭心症にはPCI先行療法よりも薬物先行療法が望ましい
- 岐阜大学大学院医学研究科再生医科学・
循環病態学・呼吸病態学・第二内科 - 藤原 久義氏
安定労作性狭心症に対する国内外のガイドラインによれば、その治療戦略に違いが見られるが、わが国ではその裏付けとなる無作為化試験がほとんど行われていないのが現状である。藤原氏らは、どの治療法を選択すべきなのか、日本独自のエビデンスを確立すべく、日本人の安定労作性狭心症に対する介入試験J-SAP study を実施、その結果を報告した。
低リスク安定労作性狭心症に対する先行療法の選択に欧米との違いが
安定労作性狭心症は、冠動脈病変の部位による死亡率の高低により高リスク安定労作性狭心症(3枝病変、左主幹部病変、前下行枝起始部病変)と、低リスク安定労作狭心症(上記以外の1枝、2枝病変)に分けられる。両者への治療戦略は異なり、欧米のガイドラインでは、前者に対しては冠動脈バイパス術(CABG)を初期治療とするCABG先行療法が、後者に対しては薬物療法を初期治療とする薬物先行療法が推奨されている。
一方、日本のガイドラインでは、前者に対しては、欧米同様CABG先行療法が、後者に対しては、経皮的冠動脈形成術(PCI)を初期治療とするPCI先行療法が奨励されている。そのため日本における患者一人当たりのPCI施行数は米国の2.2倍と高いが、どちらが患者にとって有益なのかは明らかではない。そこで藤原氏らは、全国34施設の協力により、日本人における安定労作性狭心症に対する薬物先行療法とPCI先行療法の長期予後について検討した。
PCI先行療法の優位性認めず:J-SAP 1-1 study
J-SAP 1-1 studyでは、低リスクの安定労作性狭心症患者382例(薬物先行療法群190例、PCI先行療法群192例)を対象に、平均3.5 年間の長期予後を検討した。その結果、心疾患死亡率は、薬物先行療法群が1.6%、PCI先行療法群が2.6%、心疾患死亡+急性冠症候群発症の頻度はそれぞれ2.1%、4.7%と、いずれも有意な群間差はみられなかった。また1年後の狭心症症状改善度も、薬物先行療法群とPCI先行療法群は同等であり、医療費はPCI先行療法群が有意に高く、治療1年目は薬物先行療法群の4.4倍、2年目は3.1倍だった。
高リスク安定労作性狭心症にはCABG先行療法が優れる:J-SAP 1-2 study
一方、 J-SAP 1-2 studyでは、高リスクの安定労作性狭心症患者176例(薬物先行療法群77例、CABG先行療法群99例)を対象とし、平均3.4年間観察した。その結果、心疾患死亡率は薬物先行療法群9.1%、CABG先行療法群2 %、心疾患死亡+急性冠症候群発症の頻度はそれぞれ11.7%、3%と、CABG先行療法群で有意に低く、1年後の狭心症症状改善度もCABG先行療法群が有意に優れていた(p<0.05)。医療費は、1年目はCABG先行療法群が薬物先行療法群の2.3倍と高かったが、2年目は同等だった。
このような検討結果から、低リスクの安定労作性狭心症患者の長期予後は、薬物先行療法とPCI先行療法とでは差がなく、また経済性の面から薬物先行療法の選択が、一方、高リスク安定労作性狭心症患者には、CABG先行療法の選択が好ましいと藤原氏は結論づけた。
ただし、J-SAP 1 studyは、無作為ではあるが患者の登録がレトロスペクティブに行われたため一般的症例群を反映していない可能性が指摘される。このため、現在、低リスクの安定労作性狭心症患者を、登録時からプロスペクティブに検討するJ-SAP 2 studyが進行中であり、その結果が待たれている。



