美甘レクチャー:
Treatment of Heart Failure(心不全の治療)
心不全治療に対する最新知見
- University of Michigan School of Medicine, USA
- Bertram Pitt氏
美甘レクチャーでは、心不全研究の世界的権威であるPitt氏が、心不全患者における治療に関し、最新の知見に基づき総括した。
重症心不全、心筋梗塞後の心不全に対する新たな治療戦略
現在、慢性心不全に対する標準的治療薬とされるのはアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬とβ遮断薬だが、Pitt氏は、その2薬に加え、アルドステロン拮抗薬を挙げた。アルドステロンは、血管壁のNADH、NADPHを刺激してフリーラジカルを誘発し、NOの破壊、AP-1やNF-κB伝達系の活性を引き起こすことが知られており、実際に高アルドステロン血症の患者には、心筋梗塞、脳卒中、左室肥大が多くみられる。
無作為化臨床試験のRALES試験では、アルドステロン拮抗薬の投与により、重症心不全患者の総死亡率、心不全入院率がそれぞれ30%減少すること、心突然死、心不全死亡も有意に減少することが示されており、世界の多くの国では重症心不全治療に対するアルドステロン拮抗薬の使用を推奨している。
一方、軽症心不全患者に対しては、まもなくEmphasise-HF試験が開始される予定だ。同試験によりアルドステロン拮抗薬の予後改善効果が立証されれば、重症のみならず軽症の心不全患者に対しても有用であることになる。
EPHESUS試験では、心不全の標準治療にアルドステロン拮抗薬を加えることで、心筋梗塞後心不全(LVEF≦40%)の長期生命予後(死亡率、心血管疾患死亡率・入院率など)、および30日以内の早期死亡率が、いずれも有意に低下したことが示された。さらにPitt氏は「効果発現は迅速、かつ長期にわたり維持することが判明した」と述べるとともに、特にLVEF≦30%の患者での早期死亡率抑制効果が大きかったことを踏まえ、「アルドステロン拮抗薬は、LVEFの低下した心筋梗塞後心不全の中心的治療法の一つになると考えられる」と指摘した。また低血圧誘発の危険性もなく、 ACE阻害薬やβ遮断薬など標準治療薬への併用薬としての可能性もあるという。
アルドステロン拮抗薬については、高カリウム血症を危惧する声が少なくないが、これについてはすでに回避のための指針が提示されている。この指針に基づき高カリウム血症に留意して使用すれば、アルドステロン拮抗薬は安全かつ非常に効果的な治療法となると考えられる。
拡張不全による心不全にも期待される予後改善効果
一方、アルドステロン拮抗薬は、左室収縮機能は保持された拡張不全による心不全に対しても、高血圧、心室肥大、心筋のコラーゲン形成、血管硬化、拡張機能に対する改善効果を有し、重要な治療手法となりうることが指摘されている。米国ではLVEF>45%の拡張不全の患者4,500例を対象に、アルドステロン拮抗薬の心血管疾患死亡率/心不全入院率抑制効果を検討する大規模無作為化臨床試験TOPCAT試験が近々スタートする予定だ。
最後にPitt氏は、アルドステロンはアンジオテンシンIIやステロイドとともに、高血圧、心不全、脳卒中、心筋梗塞、心突然死、腎不全など、多様な循環器疾患をもたらす経路の出発点となると説明し、「再生医療や遺伝子治療など新たな治療法の登場に期待が寄せられる時代にあっても、なお、アルドステロン拮抗薬は心不全の幅広い患者層に対し、さらなる生命予後の改善をもたらすことのできる有望な治療法である」と締めくくった。



