わが国では、高血圧は冠動脈疾患発症の最大の危険因子である。長谷部氏はまずJAMIS研究の成績を提示して、高血圧治療が冠動脈疾患の予防に極めて重要な位置を占めることを強調し、冠動脈疾患を合併した高血圧の治療には、どの降圧薬を使うのか、血圧はどこまで下げるのかの2つのポイントについて論を進めた。
冠攣縮のある患者にはCa拮抗薬が第一選択
高血圧治療ガイドライン2004(JSH2004)では、虚血性心疾患合併例のうち、冠攣縮のある患者には長時間作動型カルシウム(Ca)拮抗薬を、器質的冠動脈狭窄のある患者にはβ遮断薬を第一選択とし、降圧が不十分な場合にはレニン-アンジオテンシン系抑制薬を併用するよう推奨している。道内の日本循環器学会の会員を対象としたアンケート調査(2005年8月)でも、高血圧を合併した狭心症患者に対する第一選択薬は、Ca拮抗薬が50%、β遮断薬が41%、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)が6%で、JSH2004の内容は受け入れられていると考えられる。一方で、狭心症の40.9%で冠攣縮が関与しているという興味深い報告もある。
急性心筋梗塞後の患者を対象としたJBCMI研究では、Ca拮抗薬はβ遮断薬に比べて、心血管系イベントの発生を有意に抑制したが、その内訳をみると、Ca拮抗薬群では冠攣縮による不安定狭心症、心不全の発生率が有意に少なかった。冠攣縮患者に対するβ遮断薬の使用、心機能の低下した患者に対するβ遮断薬の導入と維持には慎重さが必要であることが示唆される。
また、冠動脈疾患合併高血圧患者を対象としたJMIC-B研究では、Ca拮抗薬ニフェジピンとACE阻害薬の心事故および全イベント抑制効果は同等であることが示された。しかし、その内訳をみると、心筋梗塞既往例における狭心症の発症は、ニフェジピン群で有意に抑制されていた。長谷部氏はこれらの知見から、JSH2004の病態別の推奨薬剤は適切であると結論付けた。
降圧目標は125/75mmHg、それ以下に下げる場合は慎重に
プロスペクティブ研究61件のメタ解析の結果から、どの年齢層においても血圧は低ければ低いほどイベント発生率が低下することが明らかにされている。一方、虚血性疾患を合併した患者には至適血圧があり、血圧がそれより高くても低くても心筋梗塞の発症率が上昇するとしたJカーブ現象の是非については決着が付いていない。
長谷部氏らが実施したASAHI研究では、拡張期血圧が低いほど冠動脈病変重症度が高度であるにもかかわらず重篤なイベントの発生率が低かったが、収縮期血圧は125mmHg未満の群で重篤なイベントの発生率が高かった。Jカーブ現象を検討する目的で実施されたHOT研究では、拡張期血圧75mmHg未満、収縮期血圧125mmHg未満で、心筋梗塞の発症リスクが若干増大しており、INVEST研究では、拡張期血圧が70mmHg以下の群では心筋梗塞の発症リスクが上昇している。
また、心筋梗塞発症例における二次予防について検討したASAHI-2研究では、70歳未満の群では収縮期血圧の低下とともに心筋梗塞や狭心症の発症リスクは低下したが、70歳以上の群では収縮期血圧120mmHg未満の群でこれらの心イベントの発症リスクが増大した。また、70歳以上の群では拡張期血圧70mmHg未満になると心イベントの発症リスクが有意に上昇した。
これらの知見から長谷部氏は、降圧目標は125/75mmHgを目安として、これ以下に下げる場合には慎重に観察する必要があるだろうと述べ、今後はインターベンションをはじめ、スタチン、抗凝固薬や抗血小板薬、硝酸薬などの影響、さらには年齢や動脈硬化病変の重症度の影響などを検討する必要があることを指摘して、講演を締めくくった。