第28回日本高血圧学会の会長講演では、本学会のテーマとして「高血圧・標的臓器障害の予防と徹底管理」を掲げた菊池氏が、自らが主宰する旭川医科大学第一内科学教室の研究業績を紹介する形で進められた。
本態性高血圧では、若年・軽症で罹病期間が短い場合には、レニン活性や交感神経活性が亢進しているが、高齢・重症で罹病期間が長くなると、これらの活性が減弱し、昇圧反応系、腎機能、腎性ナトリウム利尿系なども変化し、腎のドパミン産生系も低下する。このことから治療の第一選択薬も、レニン活性が減弱した高齢者ではCa拮抗薬となることが理解できる。菊池氏は、こうした病態の変化を十分に理解した上で研究を行うことの重要をまず強調した。
レニン活性の低下が本態性高血圧に及ぼす影響
低レニンすなわち食塩感受性の本態性高血圧では、ドパミン系に異常があると考えられるが、腎ドパミン関連遺伝子を解析したMillennium Genome Projectでは関連性は認められなかった。おそらく、食塩感受性の有無の差異などを考慮した上での遺伝子解析が必要と考えられる。
また、アルドステロン分泌はドパミン系によるtonic inhibitionを受けており、ドパミン活性が低下するとアルドステロン分泌は亢進する。菊池氏らの研究では、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)長期投与時のブレイクスルー(アルドステロン再上昇)率は45%で、ARB投与前にレニン活性が低い患者でブレイクスルー率が高い傾向が認められた。
さらに菊池氏らは、レニン-アンジオテンシン系の亢進に対するプロスタノイドの役割を明らかにするために、5種類のプロスタノイド受容体欠損マウスを用いて検討を進めている。これらの欠損マウスでは野生型マウスに比べて心負荷下のレニン活性やアルドステロン濃度の上昇が抑制されたことから、レニン活性にはPGI2が密接に関与している可能性がある。
高血圧性臓器障害を抑制するための降圧療法の検討
菊池氏らは、高血圧性臓器障害とその治療について、左室肥大とIschemic Preconditioning効果、ARBとCa拮抗薬併用による腎保護効果、腎不全患者における酸化ストレスと心血管合併症、温熱療法による動脈硬化抑制効果、チアゾリジン誘導体によるPCI後再狭窄予防の可能性、高血圧合併冠動脈疾患患者の降圧目標値などの観点から研究を進めてきた。
そのうちARBとCa拮抗薬併用による腎保護効果の検討では、カンデサルタン標準用量で効果不十分例に対し、カンデサルタン増量群と、ニフェジピンCR錠併用群の効果を二重盲検法で比較したNICE Combi Studyにおいて、ニフェジピンCR錠併用群の方が降圧効果は良好で、尿中微量アルブミンの改善効果も大きいことが示された。腎保護効果を得るためには十分な降圧が基本であることが再確認された。
また、冠血管造影を施行した狭心症例を対象としたASAHI studyでは、拡張期血圧が低いほど重篤な冠イベントの発生率が低くなるが、収縮期血圧125mmHg未満の群では、重篤な冠イベントの発生率が高くなる傾向が認められた。イベント発生と血圧値の関連性を検討したASAHI-2の成績と、海外の大規模臨床試験で達成された降圧レベルから、冠動脈疾患患者の降圧レベルが125/75mmHgまでであれば、Jカーブ現象は認められないと考えられる。
最後に菊池氏は、高血圧・標的臓器障害を予防するためには、小児を含めた若年層から生活習慣の修正を行うことが重要であり、旭川市の特定地域で就学児童を対象に介入研究を開始したことを報告して、講演を締めくくった。