日本高血圧学会が開催された旭川市には、全国に名高い動物園がある。日本最北の動物園として知られる「旭山動物園」だ。昨年、1年間の来園者数は全国の動物園で3番目の145万人。今年、7〜8月には上野動物園を大きく凌ぎ、日本一の来園者数を記録した。今、日本で一番注目されている動物園といっても過言ではない。旭山動物園がこれほどの人気を集めている理由、それは「行動展示」といわれるユニークな展示方法にある。
かつてはごく普通の古びた動物園だった旭山動物園が、現在のような形に変わり始めたのは7年ほど前のこと。その背景には「それぞれの動物がもつ命の輝きを伝えたい」という関係者の強い想いがあった。新しい旭山動物園の生みの親の一人である坂東氏は、動物の持つ命の素晴らしさ、すごさ、感動を伝えることの大切さを強調するとともに、「来園者数は結果であって目的ではありません」と、ともすれば数字や方法論ばかりが注目されがちな現在の風潮に懸念を表した。
ヒョウは眠っているだけでもつまらなくない
旭山動物園が開園したのは昭和42年のこと。つい10年ほど前までは、動物が見られるだけで価値のあった時代そのままに、狭い檻の中で動物を飼育してみせるだけの動物園だった。ヒョウなどの猛獣は、その小さな檻の中で寝てばかりいた。テレビで観るアフリカのヒョウは大草原を生き生きと走り回っているのに、動物園に「本物」のヒョウを見に来ても何もしないで眠ってばかり。その姿に「なんだ、ヒョウはつまらない」と思う人がほとんどだった。ひいてはエサや石を投げ入れたり、棒でつついたりすることも珍しくなかった。
動物の素晴らしさを伝えるためにあるはずの動物園で、実際の動物を見て「つまらない」と思わせてしまうことは、動物園の存在意義そのものを揺るがす大問題である。このような中、10年ほど前に旭山動物園は、老朽化した飼育施設を建て替える機会を得ることになった。その際、坂東氏が考えたのは、「ネコ科のヒョウは眠る動物。ならば、ヒョウがつまらない動物ではないことを伝えられる方法で、眠っている姿を見てもらうことはできないか」ということだった。
こうして「それぞれの動物にはそれぞれの行動、習性、潜在的なものを含めた能力がある。それを伝えることで、その動物がなぜそのような姿かたちをしているのか、その必然性がみえてくるはず」との結論に達した坂東氏らが、生きた命のもつ気配、息づかい、臭いをすべて伝えたい、という想いでたどり着いたのが、平成10年に完成した「もうじゅう館」だ。
画期的な展示方法「行動展示」
ヒョウは高いところが好きな動物である。「もうじゅう館」はヒョウが高い場所で寝られるように設計された。自分の頭上の高い所で伸び伸び寝ているヒョウの姿を見た人たちは一様に驚き、「ヒョウはつまらない」とは思わない。その反響を見て、坂東氏ら自身も「ちょっとした見せ方の違いで、これほどヒョウの素晴らしさを伝えられるのか」と驚いたという。こうして始まったのが、今では「行動展示」と言われるようになった展示方法である。
その根底にあるのは、「その動物の持っている習性や行動を発揮させてあげられる展示環境を作る」こと。この基本理念に基づいた動物園作りは、その後、水鳥であるペンギンが水中を飛ぶように泳ぎ、水面をジャンプする姿を様々な角度から観覧できる「ぺんぎん館」を生み、「あざらし館」を生んだ。現在では、さらに「ほっきょくぐま館」、「くもざる・かぴばら館」を含め、工夫を凝らした多くの展示施設が公開されている。
旭山動物園にはラッコやコアラのような珍しい動物はいない。しかし、どのような動物も等しく、自然の中で素晴らしい能力を持って生きている。すべての動物が平等にもつ命の素晴らしさ、その輝きを伝えることが何より大切なのだと、坂東氏は強調した。