一般臨床演題:「臨床研究」

アスピリンの一次予防に関する研究〜JPPP試験への期待

試験結果が国民の生命・健康、医療経済へ大きな影響を及ぼす可能性

自治医科大学内科学講座循環器内科学部門 島田和幸氏

動脈硬化性疾患の急性期治療および二次予防におけるアスピリンの有用性は確立しており、最近は、その一次予防における有用性が議論の焦点となっている。しかし、欧米と異なり、日本では一次予防に関する介入試験や疫学データが存在しない。このため、日本人の一次予防におけるアスピリンの有用性と適応範囲を明らかにする臨床研究が求められてきた。島田氏は、今年から本格的に始動した、動脈硬化性疾患の危険因子を有する高齢者10,000例を対象とする一次予防試験JPPP(Japanese Primary Prevention Project with Aspirin in the elderly with one or more risk factors of vascular events)の概要を報告、その結果が国民の生命と健康、高騰を続ける医療費に大きな影響を及ぼす可能性があることを述べ、プロジェクトへの支持と協力を訴えた。

10,000例を対象に一次予防効果を検証

欧米では、動脈硬化性疾患危険因子保有者や高齢者においてアスピリンが脳・心血管イベントを抑制することを示す成績が報告されており、ハイリスク患者の一次予防においてアスピリンの使用を考慮することが勧告されている。日本でも、日本循環器学会によりほぼ同様の勧告が発表されているが、その根拠となっているのは欧米の成績であり、冠動脈疾患に比べ脳卒中が優位な日本人において、アスピリンの有用性を示すエビデンスはまだない。この問題に確かな解答を得るために計画されたのがJPPPである。

JPPPは厚生労働科学研究費補助金による多施設共同臨床研究で、正式名称は「動脈硬化性疾患危険因子を有する高齢者に及ぼすアスピリンの一次予防効果に関する研究」である。対象は脳血管、冠動脈を含めた動脈硬化性疾患を診断されていない、高血圧症、高脂血症または糖尿病を有する高齢患者(60〜85歳)。対象患者は、中央登録によりアスピリン投与群(腸溶錠100mg/日)または非投与群に無作為割付され、4年間にわたり観察される。登録予定症例数は10,000例(各群5,000例)である。

症例登録は2005年3月にスタートした。2006年9月までに10,000例の登録を達成し、2010年9月まで追跡を行う予定。治療効果の主たる評価指標である一次エンドポイントは、脳・心血管系要因による死亡、非致死性脳血管障害、非致死性心筋梗塞を合わせた複合エンドポイントである。

JPPPの可能性

JPPPの概要は上記のとおりだが、島田氏によれば、その結果は国民の健康や医療費に大きな影響を及ぼす可能性があるという。現在、脳血管疾患、虚血性心疾患の医療費として年間約2兆4,500億円という膨大な金額が使われている。両疾患の年間患者数は約230万人と推計されており、一人あたりの医療費は約107万円となる。一次予防の対象となる患者は約3,000万人、この集団における脳・心血管イベントの年間発症率は2%と推計される。

もしも欧米の成績が示唆するように、アスピリンによってイベント発生が20%抑制されれば、年間12万人の発症が回避されることになる。発症回避によって削減される医療費は約1,300億円に上る。アスピリンの薬剤費は1日6.4円であることから、3,000万人が1年間(365日)服用したとしても、それによるコスト増は約700億円である。したがって、差し引き600億円の医療費の削減が可能になる。前出の医療費には慢性期の介護費用は含まれていないため、医療・介護費用を合わせたコスト削減効果はきわめて大きくなる。

もちろん、一次予防効果が証明された場合の利益は費用だけに限らない。患者の生命はもちろんのこと、患者と家族の生活の質、社会的機能に及ぼす影響は、治療の対象となる集団が大規模であるだけに、深く大きいと考えられる。島田氏は本試験の意義についてこのように述べ、今回の事業(プロジェクト)に対する支持と協力を訴えた。