一般臨床演題:「メタボリックシンドローム・臓器障害」

新規糖尿病発症は本当にリスクになり得るのか

降圧なくして臓器保護なし

東京都老人医療センター 桑島 巌氏

近年の降圧療法における薬剤選択において、新規糖尿病の発症予防作用を有するレニン-アンジオテンシン系(RAS)抑制薬などの有用性が強く指摘されている。しかし、その一方で、降圧の主要目的である、心血管系イベントの発症、死亡の予防においては、非RAS抑制薬に比較して差はないか、あるいは劣るケースも認められる。桑島氏は、これまでの実薬群比較臨床試験の成績を比較しながら、新規糖尿病発症予防など降圧薬の付随作用の治療目的に与える影響について述べ、心血管系イベントを防ぐためには、厳格に降圧を図ることが最も重要であり、「降圧なくして臓器保護なし」と指摘した。

新規糖尿病発症予防効果は高いが、心血管イベントの予防効果は高くない

桑島氏は、まずVALUE試験でのアンジオテンシンII(A-II)受容体拮抗薬とカルシウム(Ca)拮抗薬の成績を比較。新規糖尿病発症予防に関してはA-II受容体拮抗薬群が良好であった(ハザード比)ものの、心筋梗塞、脳卒中などの発症予防に関しては、Ca拮抗薬群のほうが良好であった(ハザード比)こと、さらに5年以上の長期にわたる致死性、非致死性心筋梗塞の発症もCa拮抗薬群で低く推移していた点を指摘した。

また、INSIGHT、VALUE、LIFE、ALLHATなど大規模な実薬群比較臨床試験において、新規糖尿病発症率と心筋梗塞発症の関係を検討すると、新規糖尿病発症率のハザード比あるいはリスク比が低い成績が得られた試験では、心筋梗塞発症率は逆に高いものもあった。

さらにCHARM、LIFE、HOPE、ALLHAT、VALUEなどの臨床試験を、RAS抑制薬と非RAS抑制薬に分類して、新規糖尿病の累積発症率を比較すると、RAS抑制薬群では新規糖尿病発症リスク比は低かったが、一次エンドポイント、心筋梗塞発症リスクは、プラセボ群を対照としたHOPEを除いて非RAS抑制薬群と同等か高かった。

糖尿病合併例では厳格な降圧治療を

このような傾向を示す理由について、桑島氏は、臨床試験実施中の新規糖尿病発症とは別に、臨床試験開始時での被験者の糖尿病既往が及ぼす影響に言及。最近発表された、高齢高血圧患者を対象にしたSHEPの10年間延長追跡調査結果では、14.3年間の追跡期間中において、試験開始時に糖尿病であった被験者の総死亡、心血管死を非糖尿病被験者と比較したところ、糖尿病例への利尿薬投与は予後不良をもたらさないこと、逆に利尿薬非投与群では予後不良であること、また新規糖尿病発症例では、実薬を用いて降圧を図れば予後に影響しないことが示されたという。

またイタリアのVerdecchiaの非糖尿病、糖尿病既往、新規糖尿病患者を長期間にわたり追跡調査した研究では、ランダム化後、比較的短期間に新規糖尿病患者群において有意な生存率の低下が見られたことに関して、同群では試験開始時、すでに収縮期・拡張期血圧、左室肥大の程度などが非糖尿病群に比べ有意に高かったことを指摘した。

桑島氏は、2型糖尿病を合併する高血圧症例については、UKPDSで見られるように、厳格な血圧コントロールにより、糖尿病関連死、脳卒中、微小血管障害、心不全、糖尿病網膜症進展などのリスクが減少すること、またMRFIT研究では糖尿病による血管死リスクの増加は血圧に依存していることが示されていることを挙げ、「降圧なくして臓器保護はない」ことを強調した。