基礎シンポジウム:

「高血圧基礎研究:厳格な降圧の時代における臓器保護−大規模臨床試験との解離を埋める−」

脳保護に必要な薬理作用は?

愛媛大学医学部分子細胞生命科学講座医化学・心血管生物学分野 堀内正嗣氏

基礎研究と大規模臨床試験との解離をいかにして埋めるかという、本学会の重要なテーマの一つをタイトルに掲げたシンポジウムの中で、堀内氏は、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)および長時間作用型Ca拮抗薬(CCB)の脳保護作用について解説しつつ、併せてこれらの解離の解消に向けた方向性に言及した。

基礎研究との解離は、臨床研究では結果に影響を及ぼす因子が多いことが要因

高血圧性臓器障害の中でも脳血管障害の発症、再発の頻度は高く、より厳格な降圧治療が望まれている。ARBや長時間作用型CCBが脳卒中および認知症の発症予防に有効なことは、日本高血圧学会ガイドライン2004年版にも明記されている。

堀内氏によれば、「脳卒中の一次予防、二次予防において降圧が重要なことは明らかで、この点については基礎研究と臨床研究の間に大きな解離はない。しかし、降圧薬による降圧を越えた脳卒中発症抑制に差がある可能性は十分にあり、今後はメタボリックシンドロームや心房細動を考慮した降圧対策が重要」という。

一方、臨床研究では、人種差、食生活、気候などの地域差に加え、個人の生活習慣の差の関与もあり、また血圧の日内変動の個人差、併用薬の問題、大規模試験の期間が不十分など多くの異なる因子が結果に影響を及ぼす。それに対し、基礎研究、特にマウスでは結果に影響を与える因子が少ない。このような状況が、基礎研究と大規模臨床試験との間に解離をもたらす要因の一つと考えられる。

ARB、CCBの脳保護作用に期待

虚血性脳疾患における脳保護に必要な薬理作用としては、1)酸化ストレス抑制、2)抗炎症作用、3)虚血周囲部(ペナンブラ)への血流増加、4)脳血流自動調節能の改善、5)抗動脈硬化作用や脳血管リモデリングの改善作用、6)神経細胞の保護、分化促進、7)血液-脳関門の保護などが挙げられる。

堀内氏は、中大脳動脈閉塞を有するマウスを用いた検討で、ARBおよびCCBがそれぞれ梗塞サイズの減少、ペナンブラへの血流増加、酸化ストレス抑制により脳保護作用を発揮することを確認している。また、同氏は両薬剤の併用により相乗作用が期待できることを示唆した。さらに、動脈硬化マウスにおいてCCBによる脳保護作用を検討し、CCBは動脈硬化を抑制することで梗塞サイズを減少させ、ペナンブラへの血流を増加させて脳保護的に働くことも確認しているという。

次いで、堀内氏は神経細胞分化におけるARBの良好な作用に関するデータを提示し、その認知機能に対する保護作用に期待を表明するとともに、CCBにも神経細胞分化を促進して認知機能を保護する作用が期待できるため、早急に検討を進めるべきであると強調した。

最後に、堀内氏は「基礎研究は、臨床研究の結果の理論的バックグラウンド構築に重要であり、基礎研究の成果が臨床研究の新しいスタートとなる可能性ある」と述べ、「基礎研究と臨床研究の解離を解消するためにも、相互の密接な連携のもとで高血圧治療に貢献していくことが期待される」と結んだ。