APSH Presidential Lecture
Presidential Lecture
Molecular Basis of Essential Hypertension
本態性高血圧における分子生物学の歩みと展望
- 大阪大学大学院医学系研究科老年・腎臓内科学
- 荻原 俊男 氏
近年、本態性高血圧に関する分子生物学の研究は大きく進歩した。荻原氏は、高血圧の分子生物学的研究のこれまでの歩みとともに、高血圧の新しい治療に結びつくと期待される「分子高血圧学」的戦略、さらに本態性高血圧の遺伝子治療に関する最前線の話題をレビューした。
高血圧の原因遺伝子解析の進歩
本態性高血圧は、遺伝因子と環境因子が相互に影響して生じる疾患であるため、その原因遺伝子を同定するための道のりは安易なものではない。しかし、例えばレニン・アンジオテンシン系など昇圧・降圧系に関わる候補遺伝子を、Framingham研究や大迫研究、Suita研究のような大規模コホート研究などで検討することで、現在では、アンジオテンシノーゲン(AGT)遺伝子のM235T多型であるTT型が高血圧家族歴や食塩感受性に深く関連すること、アンジオテンシン変換酵素(ACE)のI/D多型であるDD型が、男性に特異的な高血圧リスクになることなど、多くの原因遺伝子が解明されてきた。
また、家族性高血圧など単一遺伝子の異常で生じる高血圧の研究により解明された原因遺伝子も多い。さらに、わが国の国家プロジェクトであるミレニアム・プロジェクトでは、全ゲノムのスクリーニングによる本態性高血圧遺伝子の候補遺伝子の検索が進められており、多数の染色体に遺伝子座位が存在することが示唆されている。
遺伝子発現の量的情報の解読段階に入った分子高血圧学
その一方で、「分子高血圧学」における新しい戦略となっているのが、トランスクリプトーム(transcriptome)解析による遺伝子発現の量的情報の解読であり、本手法の降圧薬治療における薬理遺伝子学研究での有用性を荻原氏は指摘した。また同氏らは、近年、HVJ-Eベクターを用いた高速処理スクリーニングで機能遺伝子を同定する方法を試みている。
遺伝子治療の新しい標的は「腎」
同時に荻原氏らは、種々の遺伝子導入技術の開発を進めるとともに、デコイ(おとり)オリゴデオキシヌクレオチド(ODN)やアンチセンスODNなどの遺伝子を用いて、高血圧原因遺伝子を抑制する遺伝子治療の研究を行っており、すでに安定した降圧効果を観察している。荻原氏は、今後は腎臓が本態性高血圧に対する遺伝子治療の新しい標的になると述べ、将来的には、 AGTのアンチセンス遺伝子やレニンのアンチセンス遺伝子などを用いた本態性高血圧の遺伝子療法、テーラーメイド医療や高血圧そのものの抑制などが期待されるとの展望を語った。



