ISH Presidential Lecture
Dietary Sodium, Blood Pressure, and Cardiovascular Disease
ナトリウム摂取と血圧、心血管疾患の関係を再考する
- Department of Epidemiology and Population Health, Albert Einstein College of Medicine, New York, USA
- Michael H. Alderman 氏
高血圧の非薬物療法としてナトリウム(Na)摂取制限が推奨されているが、その有用性についてはまだ議論の余地が残されているようだ。Alderman氏は、Na制限すなわち減塩が集団の血圧の平均値をある程度下げることを認めつつも、心血管疾患抑制効果に関する成績が一致していないことを踏まえ、減塩に対する反応が人種や個人で異なること、ベースとなる食塩摂取量によって減塩の効果が異なる可能性があることなどを指摘し、Na摂取量と血圧の関係は単純に直線的でないこと、Na摂取量と心血管疾患の関係はJ型カーブを示すとの仮説を提示した。
Na摂取量の血圧に及ぼす影響には人種差と個人差
一般にNa摂取量の増減に伴い血圧は上昇または低下するといわれる。事実、減塩による降圧効果を検証した臨床研究をみると、減塩に伴い血圧が低下することを示したものが多い。しかし、これはある集団の平均値が変化したことを意味するものであって、減塩に対する反応が人種や個人によって一様でないことも明らかになっている。
例えば、Na摂取量の変化に血圧が大きく反応する現象を食塩感受性というが、米国における食塩感受性高血圧の頻度は黒人が白人に比べ圧倒的に高い。また、米国原住民の中には、過去40年間に食生活の変化に伴い食塩摂取量が大きく増加したにもかかわらず血圧が不変という集団もある。Alderman氏は、Na摂取量の変化に対する血圧の反応にこのような異質性がみられることから、降圧治療としての減塩の有用性は、人種、個々の患者の背景因子や合併症、食習慣などによって異なる可能性があると指摘した。
減塩の効果にみられるパラドックスな関係
一般に減塩を推奨する根拠として、Na摂取量が血圧に関係することと、血圧と心血管疾患リスクの間に連続的相関がみられることが挙げられる。しかし、減塩は血圧のほかにも生体に多様な影響を及ぼす。例えば、Caバランスの改善、左室肥大の抑制、胃癌リスクの低下、喘息発作の抑制などは好ましい影響といえるが、インスリン抵抗性の悪化やレニン・アンジオテンシン系や交感神経系を賦活する働きは心血管系にとって望ましいとはいえない。また、減塩は血漿レニン活性を上昇させるが、血漿レニン活性の上昇は心筋梗塞の独立した危険因子でもある。
Alderman氏は、減塩の有用性についてこれらの因子も考慮して判定する必要があるとし、さらにNa摂取量と心血管疾患の関係を検討した成績には、一見不可解なパラドックスがみられると指摘した。パラドックスというのは、Na摂取量が4,500mg/日以上と高い地域での調査では、Na摂取量が心血管疾患リスクと正相関するのに対し、Na摂取量が2,000〜3,000mg/日とそれよりも低い地域で行われた研究では、Na摂取量の減少が、逆に心血管疾患リスクの増加につながることを示した報告もあるという事実である。
この相反する成績について、Alderman氏は次のような仮説を示した。一つは、Na摂取量と血圧の関係は必ずしも直線的でなく、Na摂取量が100〜200mmol/日程度の中等度の場合はNa摂取量が変化しても血圧は一定に保たれるというものである。したがって、Na摂取量と血圧の関係は低摂取量と高摂取量のエリアでは右上がりのカーブを示すが、摂取量が中等度のエリアでは水平となる。
一方、心血管疾患のリスクはNa摂取量が中等度の場合では低く、高摂取量、低摂取量で上昇する、いわゆるJ型カーブを描く。Alderman氏は、Na摂取量と血圧、心血管疾患の関係は単純でないことを指摘、それを証明するためには、高血圧症患者の背景因子を厳格に統制した上で、減塩の有効性を検討する臨床試験が必要と述べた。



