Plenary Session

Endothelial Dysfunction

血管内皮機能障害は予後予測因子、治療標的となりうるか

Lady Davis Institute for Medical Research and Sir Mortimer B. Davis-Jewish General Hospital, McGill University, Canada
Ernesto. L. Schiffrin

プレナリーセッションでは、血管内皮機能研究の第一人者であるSchiffrin氏が、心血管疾患における血管内皮機能障害の影響について最新の研究データに基づいて概説、さらに治療法の最新知見にも言及した。

冠動脈疾患や高血圧の予後予測因子となる可能性も

Schiffrin氏は、まず血管内皮機能障害が心血管疾患に関与する機序を解説した。血管内皮機能障害は、高血圧、糖尿病、脂質代謝異常、低酸素状態/虚血、喫煙、肥満などに起因する酸化ストレスによって引き起こされる。内皮機能の障害により、一酸化窒素(NO)の産生低下、組織中のアンジオテンシン変換酵素(ACE)やエンドセリン(ET-1)の増大などが生じ、血栓形成、炎症反応、血管収縮、リモデリング、プラーク破綻が促進され、狭心症、心筋梗塞(MI)、心不全などの心血管疾患を来す。

冠動脈疾患や高血圧の予後予測因子として、アセチルコリンや血流依存性血管拡張反応(FMD)を指標とした血管内皮機能障害について検討した試験では、MI、心血管死、慢性心不全、不安定狭心症、脳卒中との関連が認められた。また、高血圧患者では内皮機能が不良なほど心血管イベントが増加するという報告や、正常血圧者に比べ高血圧患者では小動脈の内皮依存性弛緩が低下していることを示唆する報告も散見される。

血管拡張性が低下し、炎症反応や血栓形成の誘発状態に

血管内皮機能障害では、血管拡張性が低下し、炎症反応や血栓形成の誘発状態が亢進している。Schiffrin氏は、血管拡張性低下のメカニズムの中心的な役割を果たす一酸化窒素(NO)に言及し、NOの産生低下によりもたらされる血管平滑筋の弛緩阻害について詳細に解説した。次いでNO、酸化ストレス、血管作動性ペプチドの相互作用による内皮機能障害のメカニズムに触れ、VCAM-1やICAM-1などの接着分子のアップレギュレーション、ヒト単球走化活性因子(MCP-1)などのケモカインやプラスミノーゲンアクチベーターインヒビター(PAI-1)の産生などが炎症反応に関与し、血小板凝集を促すことを示した。

また、最近、内因性NO合成阻害物質である非対称性ジメチルアルギニン(ADMA)の関与が注目されている。Schiffrin氏によると、ADMAはNO合成酵素(NOS)の競合的な阻害物質で、静注によりヒト前腕血流が低下すること、また心拍出量の低下により全身性に血管抵抗性が増大することが示されている。さらに内皮機能障害に関連した疾患では、血漿ADMA濃度が増加し、NO産生が低下しているという。

内皮機能障害を標的とした治療アプローチの可能性を示唆

血管内皮機能障害の非薬物療法は運動、食事療法(野菜、果物、魚、ワインなどの抗酸化食)、禁煙である。薬物療法としてはスタチンなどの脂質低下薬、ACE阻害薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)などのレニン-アンジオテンシン系抑制薬、PPARγ作動薬などのインスリン感受性増強薬が挙げられる。また、Ca拮抗薬ニフェジピンは、β遮断薬アテノロールに比べアセチルコリン誘導性血管弛緩効果に優れ、ニフェジピンによる治療により、正常血圧者と同程度まで弛緩反応が改善したことが示されている。

Schiffrin氏は最後に、心-腎系の病態生理における血管内皮機能障害の影響に触れ、高血圧、糖尿病、インスリン抵抗性、脂質代謝異常から腎不全や心血管死に至る経過の中で、内皮機能障害の改善を標的として各疾患の治療を行うことは極めて興味深い治療アプローチであると指摘し、講演を締めくくった。